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注目の5hmC:歴史、検出法、アプリケーション

DNA Strands
 

By Michelle Tetreault Carlson, Ph.D.

November 9, 2023

はじめに

5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)は、シトシンの化学修飾様式の1つであり、4種の塩基による遺伝暗号の基本的な構成を変化させることなく、遺伝子発現やその他の細胞プロセスに影響を与えるDNA塩基修飾の1つです。5hmCは通常、5-メチルシトシン(5mC)とあわせて議論されます。これは、5mCがもう一つのシトシン修飾として長年研究され、トランスポーザブルエレメントの移動の抑制、X染色体不活性化、およびゲノムインプリンティングに関連していることがよく理解されているからです。この5mCメチル化の消失は、細胞によって積極的または受動的に制御されます。この制御は、胚形成初期の再プログラミング中、ニューロンにおける記憶の形成中、およびがんの形成中に発生します。5mCの積極的な脱メチル化の最初の段階は、Ten-Eleven Translocation (TET)酵素として知られるタンパク質ファミリーによる酸化であり、これにより5hmCに変換されます。TET酵素によりさらに酸化され、5-ホルミルシトシン(5fC)と5-カルボキシルシトシン(5caC)が形成されます。これらは塩基の異常と認識され、細胞の修復機構によって未修飾のシトシンに戻ります。当初、5hmCの形成はこの脱メチル化プロセスの中間段階に過ぎないと考えられていました。しかし、過去10年間の研究から、5hmCがおそらく中間体としての役割だけでなく、独自の重要な役割を果たしている可能性が報告されてきています。

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これまでの5hmCの知見

1952年に報告されて以来、5hmCの存在は研究者の間で知られていましたが(Wyatt and Cohen)、長い間この修飾はあまり注目されませんでした。しかし、2009年に2つの論文が発表され、その機能に関心が集まりました。1つは、ヒトとマウスの脳の核DNA中のその豊富さ(0.2-0.6%)に関する論文です(Kriaucionis & Heintz)。もう1つは、胚性幹細胞中に大量に存在し、5mCを5hmCに変換する酵素としてTET1 (Ten-Eleven Translocation 1)が同定されたことです(Tahiliani et al..)。その後2014年には、脳内のほとんどの5hmC修飾が実際に細胞の生存期間全体を通じて安定していることが実証され(Bachman et al.) 、そこから真のエピジェネティックマークとしての役割があることが強く支持されるようになりました。最近、ゲノム中の5hmCの存在する場所やその周囲のゲノム上の特定の状況や要因について多くのことがわかってきました。哺乳類のDNAでは、5hmCはおもにCpG領域にあり、非CpG領域では非常に少ない割合(〜2.5%)であることがわかってきました(Schutsky et al.)。 5hmCの分布パターンは、転写活性が高い遺伝子のgene bodyで高くなっていることもわかってきました(He et al.)。 また5mCとは対照的に、5hmCの量は組織間で大きく異なり、脳や直腸、結腸では0.5-0.6%と高く、心臓や乳房、胎盤などは0.05%-0.5%と低い割合を示します(Li et al.)。さらに、 5hmCを含む遺伝子領域の約3分の1は組織特異的であり、近くの組織特異的機能遺伝子の発現を調節している可能性があります(He et al.)。

遺伝子制御における5hmCの役割、およびそれを制御する分子メカニズムの理解はまだ初期段階にありますが、明らかなことは、異常な5hmCパターンが多くの疾患と関連しているということです。 5hmCの調節異常は、Rett症候群(Brown et al.)、自閉スペクトラム症(Cheng et al.)、およびうつ病(Gross et al.)を含むさまざまな神経疾患と関連付けられています。 また、がんにも関与しており、5hmCのゲノム全体にわたる喪失が特徴です(Jeschke et al.)。

これら特定領域の5hmC修飾の有無、およびその高い組織特異性により、5hmCは優れたバイオマーカーとしての潜在性な可能性をもっています。 血中を循環する細胞外DNA (cell-free DNA)の5hmC修飾パターンは、特に非侵襲的な診断および予後バイオマーカーとして研究されています。

Active Motif Line-1 Kit

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5hmCのマッピング

組織や細胞のDNAに含まれる5hmCの量を同定および定量化するための方法は多数あり、それぞれに利点と限界があります。

WGBS (Whole-Genome Bisulfite Sequencing: 全ゲノムバイサルファイトシーケンシング)などの、一塩基の分解能でメチル化状態を決定するための標準的な化学ベースの手法は、5hmCと5mCを区別することができません。これは、両者がバイサルファイト処理に対し、同じように振る舞うためです。TAPS (TET-associated pyridine borane sequencing)やEM-seq (Enzyme-methyl-seq)などの標準的な酵素ベースの手法を使用しても同様に区別することができません(Liu et al., Vasisvil et al.)。

DNA中の5hmCと5mCを区別するためには、いくつかの巧妙な手法が必要です。酸化バイサルファイトシーケンシング(oxBS-seq)では、バイサルファイト処理の前に、まず5hmCを5-ホルミルシトシン(5fC)に酸化する追加工程を行います。これによりバイサルファイトによる脱アミノ化に対して感度が向上します。この追加の工程により、すべての5mCの位置を決定できます。その後、5hmCの位置を推定するために、第二の標準的なバイサルファイト変換を並行して行い、最初のバイサルファイト処理と比較します。oxBS-seqの欠点の一つは、必要なシーケンス量が多いことであり、2回のシーケンスを実施するためエラーが増加することです(Booth et al.)。

5hmCを決定するためのより直接的な2つの方法は、TAB-seq (Tet-assisted bisulfite sequencing)およびTAPS (Tet-assisted pyridine borane sequencing)のバリエーションであるTAPSβです。TAB-seqでは、まず5hmCがグルコシル化されます。次に、そのDNAをTET酵素により処理し、5mCを5caCに変換します。このとき、グルコシル化された5hmCは変化しません。その後にバイサルファイト処理すると、グルコシル化された5hmCは影響を受けず、5mCから変換させた5caCと非メチル化シトシンのみウラシルに変換されます(Yu et al.)。同様に、TAPSβでは、5hmCがピリジンボランで変換されないように、TET酵素処理の前にグルコシル化します。TAB-seqとTAPSβはどちらも、どのシトシンがヒドロキシメチル化されているかを決定するoxBS-seqよりも直接的な方法ですが、どちらもTET酵素の活性に依存しており、常に100%効率的であるとは限らず、ランニングコストが高い可能性があります。

5hmCを一塩基の分解能で検出するための別のバイサルファイトを使用しない方法は、Hao Wuの研究室とRahul Kohiの研究室で開発されたACE-seq (APOBEC-coupled epigenetic sequencing)と呼ばれる技術です。ACE-seqでは、APOBEC3A (A3A)酵素を使用し、メチル化されていないシトシンとメチル化されたシトシンの両方をウラシルに脱アミン化することができますが、5hmCは変換されません。シーケンスはその後、5hmCを直接識別するために使用できます(Wang et al.)。ACE-seqは、TAB-seqやoxBS-seqなどの他の方法と同様な結果が得られるうえ、より少ないサンプル量でも実施できる特長があります。

一塩基の分解能でゲノム全体の5hmCの位置を決定することは最も多くの情報を提供しますが、そのような方法は現在でも、経済的コストと時間がかかり、サンプル量も多く必要です。したがって、大規模な研究ではまずヒドロキシメチル化された領域を選択的に絞り込む濃縮ベースの手法が広く適用されています。

そのようなアッセイの1つ、ヒドロキシメチル化DNA免疫沈降法(hMeDIP: Hydroxymethylation DNA Immunoprecipitation)は、ヒドロキシメチル化シトシン(5hmC)に特異的な抗体を使用してDNA断片の免疫沈降を行う手法です(Nester et al.)。これにより濃縮されたDNAは、特定の遺伝子座に含まれるヒドロキシメチル化をqPCRで調べたり、ゲノムワイドなシーケンス用のDNAライブラリの調製に使用できます。免疫沈降法の欠点は、抗体の品質とその結合条件に依存することです。結合条件を厳しくすることにより、5-hmCとの弱い結合を排除できますが、緩やかな結合条件では非特異的な結合を増加させ、バックグラウンドが高くなります。ただし、抗体法の利点は、CpG領域に関係なく、ゲノム上のすべてのヒドロキシメチル化シトシンをターゲットにできることです。しかし、これは哺乳類におけるヒドロキシメチル化シトシンのほんの一部に過ぎません。

5hmC-Sealと呼ばれる手法も、ヒドロキシメチル化されたDNA断片の濃縮法の一つです。この手法では抗体ではなく、β-グルコシルトランスフェラーゼ(β-GT)酵素を使用します。β-GT酵素は、UDP-グルコース供与体のグルコース残基を5hmCに選択的に付加します(Song et al.)。これに続いて、糖のビオチニル化が行い、ストレプトアビジン磁気ビーズで5hmCを含むDNA断片を捕捉します。ビオチン-ストレプトアビジンの強い結合特性により、厳しい条件でも洗浄が可能になります。このため、抗体ベースの方法よりもバックグラウンドの影響を受けにくい方法です。

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バイオマーカーとしての5hmC

ここ数十年の間、がんの早期発見および治療効果モニタリングのための方法の開発に対する関心はますます高まっています。特に、膵臓がん、卵巣がん、肝臓がんなど、進行期にならないと明らかにならないがんに対しての開発が待たれています。この分野で初期に重点となったのは、タンパク質や遺伝子発現の変化、および遺伝子変異の検出でした。がん形成にはDNAメチル化の変化が広範に起こるため、最近では血液に含まれるDNAメチル化パターンの変化をスクリーニングする方法に関心が集まっています。DNAのメチル化に基づくバイオマーカーは、RNAや遺伝子変異のバイオマーカーよりも体液中で安定しているという利点があります。ヒトではDNA中の5hmCは5mCの1/14しかありませんが、5hmCは組織特異性が高いため、これを検出することによりがんの原因特定をより簡便にできる可能性があります(Oliver et al.)。遺伝子のプロモーターおよびgene bodyにおける5hmC修飾の減少は、多くの悪性腫瘍で観察されており、肺がん、大腸がん、神経膠芽腫、胃がん、肝臓がん、悪性黒色腫では5hmCのレベルが50〜90%減少しています(Bisht et al.)。

バイオマーカーとして5hmCをマッピングし、モニタリングするための最良の方法は、感度が高く、安定した結果が得られ、必要なDNA量が少ない方法です。5hmC-Sealはこのような方法の一つであることが証明されつつあり、この技術を用いて血液中を循環しているセルフリーDNA (cfDNA)に含まれるバイオマーカー探索に関する多くの論文が発表されています(Xu et al.)。最近、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がん、または甲状腺がんと診断された260人の患者から腫瘍と隣接組織を採取し、両者のゲノムDNAおよびcfDNAについて、5hmC-Seal法を用いたゲノムワイドなプロファイリングが実施されました。ここでは、対照群として71人の良性腫瘍患者、および90人の健常者のcfDNAも同様にプロファイリングが行われています。その結果、がんの種類に特有のがん関連の5hmCパターンがcfDNA中で見出されました。5hmCに基づくバイオマーカーは特に、大腸がんと胃がんを予測できました(Li et al.)。

別の研究では、異なるサブタイプの非ホジキンリンパ腫を有する73人の新規診断患者から、5hmC-Sealを用いてcfDNA中の5hmCをマッピングした例があります。この研究では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B-Cell Lymphoma, DLBCL)と濾胞性リンパ腫(Follicular lymphoma, FL)を比較し、約300の遺伝子が両者で異なる修飾を受けていることを明らかにしました。これらの遺伝子のうちわずか4つの遺伝子における5hmC修飾の違いが、89%の患者において2種のがんを区別するのに使用できました(Chiu et al.).

同じ技術が、急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia, AML)患者と健常者との間の5hmCの違いをプロファイリングするための研究でも使用されました。著者らはこれにより、AML患者と健常者を高い感度と特異性で鑑別する診断モデルを開発するとともに、AML患者の予後を予測するモデルも開発しました(Shao et al.)。

Chuan Heの研究室は10人の臓器から得られた19個の組織を用いて5hmC-Seal法により、2020年に5hmCのヒト組織マップとして公開しました。これは、将来の研究のためのリソースとして役立てることを目的として作成されました (Xiao-Long Cui et al.)。

最後に、ClearNote Health社 (旧Bluestar Genomics社)は、cfDNAを使用した非侵襲的な膵臓がん検査を開発するために5hmC-Seal法を活用しています。この検査は2021年に、米国食品医薬品局(FDA)より新規糖尿病患者を対象としたブレイクスルーデバイス指定(Breakthrough Device Designation)を受けました。この検査は、高リスク患者群のエピゲノムとゲノムプロファイルに着目し、単純な血液検査だけで膵臓がんを感度67%、特異性97%で検出することが可能ということです。

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結論:新しい遺伝子発現制御機構のパラダイム

5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)の発見と理解は、数十年にわたって発展してきました。2009年から2010年にかけて発表された一連の重要な研究により、5hmCが特定の組織、特に脳に豊富に存在し、遺伝子の調節や発達に関与していることが示されました。5hmCはDNA脱メチル化の中間体にとどまらず、独自のエピジェネティックな調節機能を持つことが次第に明らかになってきています。2010年代には、研究者たちがoxBS-seq、TAB-seq、ACE-seq、5hmC-Sealなどの技術を開発し、方法を洗練させてきました。これらの技術により、現在ではゲノム全体のスケールで5hmCをマッピングすることが可能となり、さまざまな細胞種や組織における5hmCの包括的なプロファイリングが可能となってきました。

これらの進展により、5hmCのエピジェネティックなマークとしての意義に関する理解がますます深まり、治療への貢献や疾病管理の新たな道を開く可能性があります。少量のサンプル量から5hmCのゲノムワイドなパターンをマッピングできる安定した手法として開発された5hmC-Sealは、cfDNAに含まれるバイオマーカーを特定するために活用され、すでにいくつかの研究において、異なる種類のがんを検出し区別するための効果的な方法であることが示されています。

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About the author

Michelle Tetreault Carlson

Michelle Tetreault Carlson, Ph.D.

Michelle’s interest in science was first spurred by the starry skies above her rural farm in upstate New York State, leading her to pursue a B.S. in physics. She was originally interested in astrophysics when entering the University of California, San Diego, but transitioned towards the more practical pursuit of biology earning her Ph.D. in Biophysics, studying photosynthetic proteins. Michelle’s postdoctoral research on retinal ion channels, took her further towards biology, ultimately leading to a career in the biotech industry. She enjoys chatting with scientists about their projects and interacts with them both as a Technical Support Scientist and Product Manager for Active Motif’s DNA Methylation products.

Michelle is a mother of 4 kids and 2 cats, and her hobbies include puzzles (the sign of a patient and logical mind), cooking, and pondering the human condition.

Contact Michelle with any questions at [email protected]


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