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RNAメチル化はR-loopを制御し、ゲノムの完全性を維持する

Looping plane
 

By Stuart P. Atkinson, Ph.D.

December 1, 2021

はじめに

哺乳動物細胞における遺伝子の転写直後において、生じたばかりの一本鎖RNA分子は、典型的な二本鎖構造から変化したDNAと相互作用してハイブリッド構造を形成しており、この構造は “R-loop”として知られます。長く続く二本鎖DNA内で散在するR-loopが、転写制御やDNA修復に重要な役割を果たしていることを様々な研究が示しています (Santos-Pereira and Aguilera, 2015)。RNA/DNAハイブリッド配列もまた、ゲノムの不安定性の重要な要因であり (Allison and Wang, 2019)、放置すると正常な細胞機能に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、神経変性疾患や特定のがん (Groh and Gromak, 2014) など、ゲノムの不安定性に関連する疾患は、制御不能なR-loopの蓄積と関連しています。それでは、細胞はこのような問題となりうるRNA/DNAハイブリッド配列をどのようにして制御しているのでしょうか?

エピジェネティクス研究では以前から、分子の安定性/ターンオーバー、すなわちRNA翻訳を制御する上で、RNAに広く見られるN6-メチルアデノシン (m6A) 修飾の重要性が示唆されてきました (Yu et al., 2015およびRoundtree et al., 2017)。最近、2つの興味深い論文が、RNAメチル化がR-loopの持続性を調節することにより、ゲノムの完全性を維持するのに役立っている可能性を述べています。

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m6A修飾型R-loop ― ゲノム安定性のエピジェネティックな守護神か?

Researchers from the laboratories of Arne Klungland(ノルウェー、University of Oslo)、Natalia Gromak(英国、University of Oxford)、およびAlexey Ruzov(英国、University of Nottingham) らの研究室では、R-loopとRNAメチル化は互いに異なるものの、関連するものと想定して研究を開始しました。筆頭著者のAbakirら上記3研究室の研究グループは当初、哺乳類におけるメチル化アデノシン (N6-methyl deoxyadenosine:  6mA (m6Aとも表す)) の存在と重要性についての理解が不十分だったため、ヒト幹細胞とがん細胞のゲノムDNAにおけるm6Aの一般的な存在量を評価しようとしました。

興味深いことに、予備的な免疫沈降と質量分析の結果は、m6A修飾されたDNAがほとんど存在しないことを示す証拠となりました。その代わりに著者らは、m6A 修飾された RNA/DNA ハイブリッド配列がヒト細胞内に広く存在することを発見し、RNAメチル化とR-loopには重大な関連性があることを示唆しました。

次に研究チームは、m6A修飾RNAを含むR-loopがゲノムの完全性に関わるかどうかを明らかにするため、m6A修飾に関与するRNAメチル化酵素を解析することにより、m6A修飾RNAによってリクルートされる因子を評価しました。そして興味深いことに、METTL3 (N6-adonsine-methyltransferase, メチル基転移酵素複合体の一部) をノックダウンすると、RNA/DNAハイブリッド配列が蓄積することを発見しました。したがって、研究チームは、METTL3を介したR-loop内のRNAのm6A修飾が、ゲノムの完全性を維持するために、R-loopの除去/分解を促すシグナルとして働くのではないかという仮説を立てました。

Active Motif CUT&Tag R-loop Kit

METTL3に加え、著者らはYTHDF2— (細胞質mRNA分解を制御することが知られたm6A相互作用タンパク質 (Wang et al., 2014)) が、RNA/DNAハイブリッド配列と相互作用することも発見しました。興味深いことに、YTHDF2をノックダウンすると、m6A修飾されたRNA/DNAハイブリッド配列の数は顕著に増加し、DNA損傷マーカーの発現が誘導され、それに連動して細胞の増殖能が低下しました。

以上から、METTL3はR-loopのRNA成分をメチル化してYTHDF2の結合を誘引し、RNA/DNAハイブリッド配列の蓄積を抑制してゲノムの不安定性を防いでいることが示唆されました。しかし、そもそもMETTL3はどのようにR-loopを形成し、どのようなメカニズムでR-loopの分解をサポートするのかという疑問が生じます。

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馬を水場に導くことはできる※ - TonEBPがMETTL3に示す道

※訳注: 英語のことわざ” You can lead a horse to water, but you can‘t make it drink.”で「馬を水場に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」という意味。英文のタイトルにはその前半が当てられています。

これらの厄介な疑問は、直後に韓国Ulsan National Institute of Science and Technology/Institute for Basic Science のKyungjae Myung, Ja Yil LeeおよびHyug Moo Kwonらの研究チームが発表したR-loopとRNAメチル化の研究 (Kan and Cheon et al., 2021) により解決されました。KangおよびCheonを筆頭著者とするチームは、以前の研究結果を基に、ヒト細胞株をDNA損傷刺激(紫外線とトポイソメラーゼ阻害剤)に暴露することにより誘導されるR-loopの認識と分解に関与するメカニズムを明らかにしようとしました。著者らの興味深い発見は、転写制御因子であるtonicity-responsive enhancer-binding protein (TonEBP, 別名NFAT5) がR-loopを認識し、METTL3をリクルートしてRNA切断酵素がR-loopを分解するのを助けることにより、ゲノムの完全性を維持することを示しています (Choi et al., 2020).

以前の研究は、TonEBPがDNA損傷を感知し、複数の酵素との相互作用を介してシグナル伝達イベントを組織化する能力について記していますが(Kang et al., 2019)、前述の免疫沈降と質量分析を組み合わせた研究 (Kang and Cheon et al., 2021) は、METTL3とTonEBPの相互作用の確実な証拠を示しました。著者らは、TonEBPが特殊な「3次元衝突と1次元拡散」の二重探索機構によりDNA損傷で引き起こされるR-loopを迅速かつ効率的に認識することを発見しました。これにより、TonEBPはMETTL3をリクルートしてR-loopに結合し、RNA/DNAハイブリッド配列のRNA成分にメチル基を付加できます。NF-κBタンパク質や他のいくつかの転写因子に存在するRel相同ドメインは、DNA結合タンパク質複合体の形成を促進し、TonEBPによるR-loopの認識と、TonEBPとMETTL3の相互作用の両方を媒介します。著者らはまた、TonEBPが先述のYTHDF2-R-loop相互作用も制御していることを見出しました。

Active Motif scRNA/snRNA-Seq Services

著者らは最終的に、TonEBPがMETTL3との相互作用を通じて、RNaseH1(RNAを加水分解する非特異的エンドヌクレアーゼ)をR-loopにリクルートすることも示しました。これによりRNAが除去され、二本鎖DNAが典型的なコンフォメーションに再構築されます。以上の知見を裏付けるように、TonEBPの発現が失われるとm6A修飾RNAが減少し、R-loopの数は増加してDNA損傷刺激に曝露した後の細胞増殖と生存率が低下しました。

これらのデータは、TonEBP-METTL3-RNAメチル化経路が、RNaseH1の関与を介し、DNA損傷により誘導されたR-loopの分解に重要な役割を果たしていることを示す証拠となります。著者らの発見は、R-loopのホメオスタシスが細胞の生理機能および様々な疾患の発症に重要であることから、次の課題としてTonEBPのすべての機能を解明することが重要であることを強く示唆しています。

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RNAメチル化とR-loopの未来

総括すると、これらの興味深い発見は、RNAメチル化の潜在的な役割に関する今後の研究の発展を後押しするものといえます。さらに、R-loopの分解に関するメカニズムの理解は、特定のタイプのがんや、 神経変性疾患におけるゲノムの不安定性を防ぐ治療戦略の開発を促進する可能性もあります。

この興味深いエピジェネティクス研究分野の詳細については、Nature Genetics2020年1月号およびNucleic Acids Research2021年1月号をご参照ください。

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About the author

Stuart P. Atkinson

Stuart P. Atkinson, Ph.D.

Stuart was born and grew up in the idyllic town of Lanark (Scotland). He later studied biochemistry at the University of Strathclyde in Glasgow (Scotland) before gaining his Ph.D. in medical oncology; his thesis described the epigenetic regulation of the telomerase gene promoters in cancer cells. Following Post-doctoral stays in Newcastle (England) and Valencia (Spain) where his varied research aims included the exploration of epigenetics in embryonic and induced pluripotent stem cells, Stuart moved into project management and scientific writing/editing where his current interests include polymer chemistry, cancer research, regenerative medicine, and epigenetics. While not glued to his laptop, Stuart enjoys exploring the Spanish mountains and coastlines (and everywhere in between) and the food and drink that it provides!

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